未知谷の刊行物【国内文学】
ひとり歩けば
辻まことアンソロジー
辻まこと 著 / 柴野邦彦 編・解説
四六判上製192頁 2,000円(税別)
ISBN978-4-89642-361-7 C0095
辻まことが愛した山での暮らし
自然との交流を描いた作品群から
かつての山の若き友が厳選した20篇
辻まことの山登りは未開の山を踏破するエクスペディションでもなく、高さや困難を求めることを目的とする現代アルピニズムのようなものでもなかった。その舞台は彼が自分で言うようにヒマラヤでなくウラヤマだった。霧の裏側や森の迷路をさまよい、自分の孤独を完成させようとする旅であった。
(本書「辻まことの山」より)
峠の上に曲った一本の樹が立っていた。それを友人の一人はマツと呼んだ。アカマツかクロマツかゴヨウマツか。そういう整理の方向に樹木を見ない私を友人は笑った。当然だとおもう。しかし私は実は、その形式に樹木だけを見たのではない。私にとっては、視覚された風だった。マツの形式に現われた風。風の形式を表現したマツだった。モンシロ蝶、モンキ蝶、ウラシロシジミ、それらの分別は誰かが問うに値することだ。ただ私は「てふてふ」とはじめて名を呼んだ人の心のほうに惹かれていく。
(本書「わが未開の心」より)
目 次
頁
一日のオトカム
8
まどろむオトカム
16
小屋ぐらし
1ツブラの隠れびと/2メシだぞォー/3モミジのまるた/4コウモリ穴/5カモフリョーズ
18
長者の聟の宝舟
31
ずいどう開通
44
風説について
57
一所懸命の人
67
横手山越え
出発/頂上/林間尾根/ダマシ平/芳ヶ平の小屋/谷間の路
80
一人歩けば
1未決闘/2むくい/3遭遇/4樹の上から/5対岸の人/6手帳
93
ある山の男
110
森で
119
鬼怒沼山
129
けもの捕獲法
137
無風流月見酒
144
川岸の春
151
山の景観
159
わが未開の心
165
風
174
演奏会
176
あとがき
178
辻まことの山 柴野邦彦
183
辻まこと [つじ まこと]
1914年生まれ。本名辻一。詩人、画家。フリーのグラフィック・デザイナーとして文明批評的なイラストをはじめとする多くの作品を残し、山岳、スキーなどをテーマとした画文でも知られる。日本のダダイズムの中心的人物辻潤と婦人解放運動家伊藤野枝が両親。1975年没。著書に『虫類図譜』『山からの絵本』『辻まこと全集』『全画集』等。
柴野邦彦 [しばの くにひこ]
1943年、東京生まれ。上智大学フランス語科卒。フランス大使館勤務後、イベントプロデュース業等を経て、現在絵描きと、文筆業。登山とフライフィッシングを愛好。著書に『川からの釣人の手紙』、訳書に『ア・フライフィッシャーズ・ライフ』等。
Fario Friends of Tokyoおよび日本登攀クラブ会員。
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