未知谷の刊行物【国内文学】
黒と白の猫
小沼丹 著
四六判・布張上製・美装貼函入 336頁 4,000円(税別)
ISBN4-89642-135-3 C0093
小沼丹の著作のなかで、愛読されてきた作品群に、一連の「大寺さんもの」がある。
大寺さんは昭和39年5月、作品「黒と白の猫」に初めて登場する。「昔は面白い話を作ることに興味があつた。それがどう云ふものか話を作ることに興味を失つて、変な云ひ方だが、作らないことに興味を持つやうになつた。…突然女房の死に出会つて、気持の整理をつけるためにそれを小説に書かうと思つた。…最初は一人称で書く心算だつたが、どうもうまく行かない」(「懐中時計」)。「それが書けたのは、大寺さん、を見附けたからである。一体どこで大寺さんを見附けたのか、どこから大寺さんが出て来たのか、いまではさつぱり判らない」(「十年前」)。爾来、昭和56年3月「ゴムの木」まで17年にわたって、「大寺さんもの」は、12作品に書き継がれた。
『
懐中時計
』『
銀色の鈴
』『
藁屋根
』『
木菟燈籠
』『
埴輪の馬
』五冊の単行本に収められた「大寺さんもの」12作品(未知谷版全集では
第二巻
・
第三巻
に既収)を、一冊に纏める。
原稿用紙にして450枚に及び、小沼文学の白眉と評されながら、これまで一冊に纏められることのなかった連作作品群が、ここに初めて集成される。
「鬱屈した気分の折、私はしばしばこの『大寺さんもの』に心いやされたという経験がある。憂鬱な気持をもてあました時、私はよくベッドにこの作品群を持ちこんだものだ。小沼ファンはみな同様の経験をしていると私は思っている」(大河内昭爾氏「小沼さんの視線」全集
第四巻
月報)
「『黒と白の猫』は、私が小沼の作品の中でもいちばん好きな作品だ。気どりのない語り口でしみじみとした気持にさせられる、真性のユーモアをたたえたい」(庄野潤三氏「監修の辞」
未知谷版全集
内容見本)
「小沼丹が身辺に取材した大寺さんものを徐々に深化させて、私小説ではなく、英国風としかいいようのない諧謔と突き放した自己観察の場として文章を磨いていったことは多くの読者の知るところだ」(
堀江敏幸氏『風光る丘』書評
)
目 次
頁
黒と白の猫
7
揺り椅子
39
タロオ
59
蝉の脱殻
79
古い編上靴
109
眼鏡
167
銀色の鈴
195
藁屋根
223
沈丁花
253
入院
277
鳥打帽
293
ゴムの木
315
小沼丹 [おぬま たん]
大正7年、東京生れ。昭和14年、明治学院在学中に「
千曲川二里
」を発表。井伏鱒二を訪問、爾来師事する。昭和15年、早稲田大学文学部英文科入学。昭和29年「
村のエトランジェ
」刊。昭和30年「
白孔雀のいるホテル
」刊。両表題作とも芥川賞候補となる。昭和33年、早稲田大学文学部英文科教授。「
黒いハンカチ
」刊。昭和44年「
懐中時計
」刊、読売文学賞受賞。昭和45年「
不思議なソオダ水
」刊。昭和46年「
銀色の鈴
」刊。昭和47年、早稲田大学在外研究員として半年間渡英。「
更紗の絵
」刊。昭和49年、ロンドン滞在記「
椋鳥日記
」刊、平林たい子賞受賞。昭和50年「
藁屋根
」刊。昭和51年「
小さな手袋
」刊。昭和53年「
木菟燈籠
」刊。「小沼さんの印象は最初のときも現在も、少しも変らない。作品はユーモアに渋味を増して、そして、いつも隣人の気安さでこちらを引きこんでくれる。小沼さんの私小説には、小沼さんの飾らない人柄がそのまま滲み出ている。近作の収められた『
木菟燈籠
』も、忘れ難い作品が多い」(島村利正)。昭和54―55年「小沼丹作品集」(全五巻)刊。「小沼丹を好む人が多くなって来ているという。それがみな文学の読み手としては年季の入った人ばかり…。何がそれほど惹きつけるのか。何が親しみと共感のうちにやがて深い喜びと安らぎをもたらすのだろう。誠実味だろうか。腕白とユーモアだろうか。決して愚痴をこぼさない男らしさだろうか。詩的感受性の細やかさだろうか。東西の文学、芸術から吸収して当人の気質に融け込ませてしまった教養の力だろうか。悠悠としているところだろうか。つまるところは才能というほかないのである」(庄野潤三)。昭和55年「
山鳩
」刊。昭和61年「
埴輪の馬
」刊。平成1年、日本芸術院会員。平成4年「
清水町先生
」刊。平成6年「
珈琲挽き
」刊。平成8年11月歿。平成10年遺稿集「
福寿草
」刊。
16年、未知谷より「
小沼丹全集
」全4巻刊、17年「
風光る丘
」刊、「
小沼丹全集 補巻
」刊。
小沼丹全集
[
第一巻
](品切れ) [
第二巻
] [
第三巻
] [
第四巻
] [
補巻
]
[
風光る丘
]
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