未知谷の刊行物【海外文学】



 
ボズのスケッチ
チャールズ・ディケンズ 著 / 藤岡啓介 訳
A5判上製800頁 8,000円(税別)
ISBN978-4-89642-411-9 C0097



文豪ディケンズのデビュー作!
待望の完訳版 ついに刊行!!

 
人や馬や牛、水や風の力で農業や機織りがのんびりと営まれていたのが、あのワットの発明で、70年ほど後の1837年にロンドンでマンチェスター行きの蒸気機関車が走り出すようになります。産業の規模も単位もスピードも一変します。地方から都市に仕事を求めて人々が集まり、成功して金持ちになったり、貧困に苦しむ人がゴミのように排出されたり。1830年代のロンドンは貧困、犯罪、政財界の腐敗堕落、環境汚染にいたるまで、近代国家のもつすべての問題を抱えていました。国王と英国キリスト教によるたくみな政治体制も、世の中が変わってくるとさまざまな矛盾が現れてきます。教会を利用した行政単位の「教区」も、「ワークハウス(貧民救済施設)」や「ナショナルスクール(国民学校)」などの救済施設も、やがて新しい行政制度に生まれ変わっていくのですが、23歳、駆け出しの新聞記者チャールズ・ディケンズは、自分の足で歩き目で見た「わが街」の人々を、迸るような勢いで連載記事に仕立て上げます。(我らが教区篇その1「訳者前曰」より)
 
我らが教区篇 7篇
情景編    25篇
人物篇    12篇
短篇小説篇  12話
 
訳者による解説
イギリス刊行時のイラスト40点収録


目  次

著者序文――『ボズのスケッチ』第一集、初版によせて

我らが教区篇

 その一 世話役をはじめとする教区のお偉方 10
 その二 美男牧師補に大難が、老婦人には少難が 20
 その三 四人の未婚姉妹に婿殿ひとり 29
 その四 世話役選挙、大佐殿大いに働く 37
 その五 ブローカーの下僕も人の子です 48
 その六 ミスたちの婦人会騒動記 64
 その七 隣家に間借りする人たち 73
 
情景篇
85 
 その一 ロンドン――朝 86
 その二 ロンドン――夜 95
 その三 商い変われど、処変わらず 104
 その四 スコットランドヤード、今は昔 110
 その五 セブンダイヤルズ――と、ここに巡査が現れて…… 118
 その六 靴もブーツも踊り出す――モンマス・ストリート瞑想 127
 その七 ハクニー・コーチ――もしも馬車に自伝が書ければ 138
 その八 ドクターズコモンズ――お裁きだ! 遺言状だ! 146
 その九 ロンドンのレクリエーション数々 154
 その十 テームズの川遊び 163
 その十一 アストリー円形曲馬劇場 173
 その十二 グリニッジ・フェア――縁日も乱舞でお開き 183
 その十三 勅許なしの、もぐりの劇場 197
 その十四  昼のボクスホール・ガーデン――議員さんが気球に乗った 209
 その十五 早起き、早立ち、馬車は行く 218
 その十六 なんといっても乗合馬車が…… 227
 その十七 辻馬車最後の御者、乗合馬車最初のカッド 234
 その十八 議会スケッチ――あわせて食堂ベラミーズ・キッチンも 249
 その十九 公式晩餐会――なんといってもチャリティーが…… 265
 その二十 五月祭り――煙突小僧のお練りも今は昔 275
 その二十一 ブローカーズ・ショップと船具古物商 287
 その二十二 ジンショップ――イングランドの忌むべき悪所 294
 その二十三 質屋――女たちの歩む、これより先は 303
 その二十四 刑事裁判所――手順あれども心の痛みに触れる情けなし 315
 その二十五 ニューゲート監獄訪問記 321
 
人物篇
337 
 その一 人はさまざま、思いあり 338
 その二 クリスマス、お説教の半分でも守って 347
 その三 新年、いささか感傷的ではありますが 355
 その四 女心と、チョッキ男と頬ひげ男 363
 その五 それを証明したまえ 371
 その六 ああ、子供のままで死んでいたなら…… 379
 その七 妻なる者を恋い慕うオールドボーイ 385
 その八 響け、コロラチューラ 395
 その九 ピストルかね、それとも剣かい――ダンス教室異聞 405
 その十 シャビー・ジェンティール――落ちぶれながらも身は繕って 416
 その十一 友よいざ、今宵はわれらがもの 422
 その十二 犯罪と不幸の荷を乗せて、女王様の馬車が行く 431
 
短篇小説篇
435 
 第一話 ボーディングハウス盛衰記
   その一 結婚だって? 結婚なんだよ 436
   その二 男が名誉ある自立を得るまでの長々しきお話 463
 第二話 決断のとき――ポプラ並木通りでのディナー 496
 第三話 かけ落ちでございます、閣下――花嫁学校感傷賦 513
 第四話 かくありてかくなりぬ――ラムズゲートのタッグス一家 533
 第五話 然るべき人物――ホレイショー・スパーキンズの場合 563
 第六話 母なれば――黒いヴェールの婦人 588
 第七話 晴れのち曇り、こともなし――蒸気船でテームズ下れば 603
 第八話 思い違いも重なれば――グレート・ウィングルベリーの決闘 634
 第九話 幕は上がった――ミセス・ジョセフ・ポーターの出番 662
 第十話 結婚、ああ結婚――ワトキンス・トトル氏に振りかかった難儀
   その一 こうして人は冒険に旅立っていく 678
   その二 こうして人は冒険に臆することになる 698
 第十一話 二つの戒め――ブルームズベリーでの洗礼命名の儀 733
 第十二話 憐れみの祈りもなく――大酒飲みの死 758
 
青春ディケンズ――『ボズ』の誕生
775 

チャールズ・ディケンズ [Charles Dickens] (1812―1870)
代表作『オリバー・ツイスト』『クリスマス・キャロル』『大いなる遺産』など。
 
藤岡啓介 [ふじおか けいすけ]
1934年、東京にて藤岡淳吉の次男として生まれる。早稲田大学文学部露文科専攻。
父淳吉は堺利彦の門下で昭和初期に独立系左翼出版社共生閣を創設、わが国で初めての『国家と革命』(レーニン)を非合法出版などして、壊滅状態にあった左翼運動の中でひとり気を吐き、また、第二次大戦後は彰考書院にて、幸徳・堺訳『共産党宣言』を初めて完本にて世に送り、社会科学、文学、民族学、歴史学関係の出版活動を行うなど、ひとつの志をもって出版を営んでいた。志も55歳までの苦闘に萎えてしまったものであるか。しかし土佐の出身であることもあってか、子供たちの幼年期、少年期の教育では、坂本龍馬、中江兆民、幸徳秋水が愛すべき英雄であること、マルクス、エンゲルス、レーニンを知らぬことは罪悪であること、そしてこれらの人物のエピソード、伝聞ではない堺利彦の直話を聞かせていた。志を次代に伝えることに意を尽くした。
中学のころ、堺利彦の翻訳したアプトン・シンクレア、ショー、ロンドン、ゾラの作品を耽読したのはこの影響であった。また、父の友人、レーニンの翻訳家川内唯彦、フランス文学者石川湧、文化人類学者岡正雄の諸先生に哲学、文学、外国語、翻訳などについての教えを自宅にいながら傾聴することができたのは、かけがえのない父の遺産であった。この頃のわが家は大学であった。
社会の書記たらんとしたバルザックに傾倒したのは、やはり志であったか。大学には『バルザックとドストエフスキー』を卒論として提出した。論中、サドを引いて論を立てたが、卒論主査が「サドは実在の人物かね」と問われた。大学中退は経済的理由を主としたものであったが、やはり中退が名誉であったと思っている。
1956年、彰考書院にて『雪どけ』(エレンブルグ、小笠原豊樹訳)、『マルキ・ド・サド選集』(澁澤龍彦訳、全三巻)を企画、出版。同社の慢性的事業不振に対応尽き、やがて閉鎖。筆名にて大衆時代小説を連作。
1959年、専門技術誌出版社に勤め、年鑑、便覧、月刊誌を編集。1973年、株式会社インタープレス設立、月刊誌『工業英語』を創刊、1983年、我が国初の英和対応データベースをコンピューターにより編集した『科学技術25万語大辞典』を刊行。1995年、電子辞書編纂、執筆、翻訳を業とする。
著書
『翻訳は文化である――妙訳は口に苦し』(丸善ライブラリー、2000年)
『英語翻訳練習帳――ジュリア・ロバーツはお好き?』(丸善ライブラリー、2001年)
『英文を読み解き訳す――出版翻訳デビューの手ほどき』(三省堂、2012年)
翻訳
『ボズのスケッチ 短編小説篇 上、下』(チャールズ・ディケンズ、岩波文庫、2004年)
『世界でいちばん面白い英米文学講義』(E.エンゲル、草思社、2006年)
『人生最期のことば――時代をつくった83人』(T.ブレヴァートン、丸善出版、2013年)
辞書編纂
『科学技術25万語大辞典、英和/和英編』(インタープレス、1983年)
1983年度日本出版翻訳文化賞(毎日新聞社)特別賞受賞

小社刊のチャールズ・ディケンズの著作物
[英国紳士サミュエル・ピクウィク氏の冒険]


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