『ズンデヴィト岬へ』の書評3

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コ ー ド
ISBN4-89642-116-7
書  名
ズンデヴィト岬へ
著  者
ベンノー・プルードラ 著 / 森川弘子 訳・解説
書  評
タイトル
(書評タイトルなし)
評  者
森本真実
東京子ども図書館
掲載誌紙
「こどもとしょかん」
第105号 春2005
燈台守の一人息子、八歳のティムは、父母と岬の家に住んでいる。ある日、浜辺でキャンプをしていた子ども達と会ったティムは、ズンデヴィト岬への旅行に誘われる。長い休みの間一人でさびしい思いをしていたティムは、嬉しくてたまらない。両親の許しを得るが、修理工場の所長さんが燈台に眼鏡を忘れていってしまった。誰かが届けなければ。片道九キロ。自転車を飛ばせば充分間に合う。ティムはお使いを買って出た。ズンデヴィトへ思いを馳せながら自転車を走らせ、眼鏡を届けたティムだが、帰り道にある組合にボルトを届けてくれと頼まれる。その先では老婦人が……。時間は刻々と過ぎていく。でも困っている人の頼みを断れない。あせる心で自転車を飛ばしたので、転んで自転車が壊れてしまう。約束の正午は過ぎてしまった。でも、もしかしたらみんなは待っていてくれるかもしれない。全速力で走って帰ったティムの目に入ったのは、誰もいない浜辺。でも、そこにメモが残っていた。「さようなら……それでも、追いかけておいで!!!」
あこがれ、期待、困惑、焦燥、落胆、そして希望が何度も繰り返される。ズンデヴィトに行きたい。ティムの強い思い、心臓の鼓動が伝わってきて、一緒にはらはらしながら読み進む。大人には小さなことでも、子どもにとっては重大事。そんな子どもの悩みや問題を、著者は真剣に扱い、八歳の男の子ならではの心の動きをこまやかに描き出している。緊迫感のある筋の背景となる自然描写も美しく、岬や浜辺の様子、ティムが自転車を走らせる丘の道などの風景が鮮やかに浮かび上がる。また他の登場人物も個性豊かに、控えめなユーモアを交えながら描き、作品にふくらみを持たせている。孫にとお茶を預けた老婦人の幸せそうな姿を見て、自分も嬉しくなるティム。そんな暖かな気持ちもそこここに残してくれる。
小学校中級に薦めたいが、本造りが大人向きなのが残念。挿絵も雰囲気はあるのだが、ティムが八歳には見えない。原書はフルカラーの挿絵がほぼ毎頁あって、活字も大きい。訳語や漢字の使い方なども含め、読者を考えた本造りにしてもらいたかった。著者は旧東ドイツを代表する児童文学作家。本書は1965年初刊以来、統一後も読み継がれている。1992年『マイカとコウノトリ』(未邦訳)でドイツ児童文学賞受賞、2004年に作家の全業績に対して同賞特別賞が授与されている。邦訳に『ぼくたちの船タンバリ』や『白い貝のいいつたえ』など。


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未知谷