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大塚楠緒子作品集
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大塚楠緒子 著 / 石蕪 編
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四六判上製288頁 3,000円(税別)
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ISBN978-4-89642-645-8 C0095
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1910(明治43)年11月9日、大塚楠緒子がわずか三十六歳の若さで亡くなってから今年で111年を迎える。文学者を顕彰する諸行事が各地で催される昨今、生前の華やかさに比べると、彼女の文学に親しむことのできない現状は寂しいかぎりである。
……………
……笑い方ひとつに、登場人物の態度や心理を反映させる表現上の工夫。それはある〈型=漢文学的な教養〉へのこだわりであったように思われる。漢語のもつ規範的な意味に収まりきらない生身の人間のさまざまな表情をすくい取ろうとするとき、楠緒子の感性は鋭敏に反応する。漢語に付されたルビの不統一性は、ある規範に簡単に従えない人間の感情の微妙さに神経を尖らせている証拠である。こうした繊細な言語感覚は、歌を詠むことによって身につけた感性のしなやかさの現れといえるだろう。
……一九〇〇年代末期、楠緒子は、夏目漱石の推薦によって、……新聞連載小説を執筆する機会に恵まれる。……師漱石の期待に応え、本格的な小説に乗り出し、繊細かつ微妙な心理表現を切り開こうとする文章観は『空薫』ならびにその続篇『そら■(火へんに主)』に凝縮している。
(「解説」より)
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目 次
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頁
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新体詩
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お百度詣
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7
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忘れはてしと
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8
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短歌
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短冊
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11
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雛鶏
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11
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暮春
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15
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雪の日
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18
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身ひとつ
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21
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随筆・評論
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竹柏会第二回親睦会記
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27
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将来の女子の文章について
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34
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うめ草
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36
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小説
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しのび音
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41
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離鴛鴦
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51
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あのかたの記
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69
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客間
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74
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蛇の目傘
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81
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空薫
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89
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そら■(火へんに主)(続篇)
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175
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解説 石蕪
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267
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初出一覧
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275
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略年譜
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276
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大塚楠緒子 [おおつか くすおこ](1875〜1910)
東京生まれ。作家・歌人。本名は久壽雄(くすお)。16歳で竹柏園佐佐木弘綱のもとへ入門。古典と短歌を学び、弘綱歿後はその子信綱に師事。31歳の時に発表した「お百度詣」は日露戦後に出征した兵士の妻の情をうたい、詩史にその名をとどめた。初めての作品集『晴小袖』(1906、隆文館)を刊行した翌年、夏目漱石と師弟関係を結び本格的な創作活動に入る。漱石の推薦で『東京朝日新聞』に連載された「空薫」(続篇「そら■(火へんに主)」)は新境地をひらいて注目された。
石蕪 [いしざき ひとし]
1941年横浜市生まれ。現在、立教大学名誉教授。日本近代文学会・鎌倉漱石の会会員。
著書に『夏目漱石博物館 その生涯と作品の舞台』(1985、彰国社、増補改訂版『夏目漱石博物館 絵で読む漱石の明治』、2016、彰国社)、『漱石の方法』(1989、有精堂出版)、『夏目漱石 テクストの深層』(2000、小沢書店)、注解『定本 漱石全集 第十九巻 日記・断片上』(2018、岩波書店)、注解『定本 漱石全集 第二十巻 日記・断片下』(2018、岩波書店)、『有る程の菊 夏目漱石と大塚楠緒子』(2020、未知谷)、共著『日本近代文学年表』(1984、双文社出版、2017、鼎書房〔増補版〕)、共著『明治文学全集別巻 総索引』(1989、筑摩書房、物集索引賞受賞)など。
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