未知谷の刊行物【哲学・思想・女性学】



 
サラ・コフマン讃
F・コラン,J=L・ナンシー,J・デリダ 他 著 / 棚沢直子,木村信子 他 訳
四六判336頁 3,000円(税別)
ISBN4-89642-133-7 C0010



サラ・コフマンは
生を肯定して高らかに笑う
ホロコーストを生き延びたサラは
赦しがたきを赦すという試練
このアポリアを乗り越えるために
性を超える生
自らの生の肯定を最優先した
 
コフマンの真骨頂は、西欧の大哲学者たちが構築した哲学体系に、ただ一点「女性的なもの」をとおして破れ目をつくり、その形而上学を解体してみせることだった。たとえばカントの唱えた他者への尊敬を当然なものとする先験的な道徳律は、母=女にたいする尊敬=敬遠から出発した経験的なものであることが立証される。女への尊敬=敬遠は、他者への尊敬の一つのかたちなのではなく、まず母=女への尊敬=敬遠があって、そこから他者一般への尊敬が始まるのだ。こうしてコフマンは、カントの説く道徳律の「純粋性」が実は女性的なものによって「汚染」されたものであることを示し、形而上学の客観的と見えた構築が、哲学者の性のポジションからくる極めて主観的な動機に基づいたものであることを明らかにした。コントの実証哲学も、ルソーの教育論も同様の手法で分析される。……本書はサラ・コフマンの格好の入門書であり、さらには、現代に生きる私たちに課された難問に切り込みを入れる方法を、いくつもの側面から示唆してくる貴重な追悼文集である。巻末の詳細な作品目録はコフマン研究に大いに資するはずである。(「あとがき」より)


目  次

袋小路と通路
 フランソワーズ・プルースト/木村信子 訳

ほどよい食事は無理――哲学と物語――
 フランソワーズ・コラン/棚沢直子 訳
16 
クール、サラ!
 ジャン=リュック・ナンシー/棚沢直子 訳
42 
視線と女
 モニック・シュネデール/天野千穂子 訳
57 
サラの幼年
 ジャン・モレル/芝崎和美 訳
80 
コフマンによるルソー読解――敬遠
 マリー=ブランシュ・タオン/加藤康子 訳
109 
女はいかに哲学するか
 フランソワーズ・デュルー/木村信子 訳
131 
転倒
 ヨーケ・ヘルムセン/中嶋公子 訳
162 
 
 ジャック・デリダ/芝崎和美 訳   (タイトルなし)
197 
サラ・コフマンのテクスト(聖なる食事/自分自身の名のための墓碑/「私の生」と精神分析)
 サラ・コフマン/木村信子 訳
265 
サラ・コフマン略伝
 木村信子 訳
274 
サラ・コフマン追悼
 棚沢直子
276 
甦るサラ・コフマン 解題=訳者あとがき
 木村信子
288 
サラ・コフマン作品目録
301 

筆者紹介
フランソワーズ・コラン
哲学者。作家。女性問題を扱う草分け的な理論誌『グリフ手帖』を1973年に創刊。著書『モーリス・ブランショとエクリチュールの問題』、『人間は余計者になったか――ハンナ・アレント』など多数。小説も手がける。女性問題に関する論文多数(「科学に性はあるか」など)。
 
フランソワーズ・プルースト
パリ第一大学で哲学講師およびコフマンの助手を勤めた。著書『カント、歴史のトーン』、『レジスタンス』のほかに、ハンナ・アーレントやワルター・ベンヤミンに関する論文多数。1998年に死去。
 
ジャン=リュック・ナンシー
フランス思想界をリードする哲学者の一人。ストラスブールのマルク・ブロック大学教授。著書『無為の共同体』、『エゴ・スム――主体と変装』、『主体のあとに誰がくるのか』(編)、『世界の創造あるいは世界化』など多数。近年はグローバリゼーションに抗する立場から言及。
 
モニック・シュネデール
精神分析医。著書『ドン・ジュアンと誘惑のプロセ』、『男の系譜学』、『女のパラダイム』など。
 
ジャン・モレル
パリ第一大学教員。著書『哲学者ヴィクトル・ユゴー』の他、哲学・文学に関する論文多数。
 
マリー=ブランシュ・タオン
オタワ大学(カナダ)政治・社会学部教授。著書『脱制度家族』、『性関係社会学』のほか、ジェンダー研究に関する論文多数。
 
フランソワーズ・デュルー
パリ第八大学教授。「女たちの社会」、「アンチゴーヌ再び――女たちと法」など、性的差異に関する論文多数。
 
ヨーケ・ヘルムセン
ティルブルグ大学(オランダ)教授。著書『差異の共有』、『他者の思想』など。コフマンへのインタビューが『女たちのフランス思想』(勁草書房)に収録。
 
ジャック・デリダ
ポスト構造主義の代表的哲学者。形而上学を支える基盤を解体して、排除・隠蔽されたものを救い出す彼の方法は「脱構築」として知られる。9・11以降はグローバルな課題に取り組む。著書『尖筆とエクリチュール――ニーチェ・女・真理』、『グラマトロジーについて』、『声と現象』、『グラ弔鐘』、『テロルの時代と哲学の使命』(共著)など多数。2004年10月死去。
 

訳者紹介
棚沢直子 [たなさわ なおこ]
東洋大学教授。専攻:現代フランス思想、一七世紀フランス文学。共著:『女性学をつくる』(勁草書房)『女は世界をかえる』(勁草書房)『フランスには、なぜ恋愛スキャンダルがないのか?』(角川ソフィア文庫)『母と娘のフェミニズム』(田畑書店)『恋愛と性愛』(早稲田大学出版部)。編訳書:『女たちのフランス思想』(共訳、勁草書房)イリガライ『ひとつではない女の性』(共訳、勁草書房)クリステヴァ『女の時間』(共訳、勁草書房)ボーヴォワール『決定版 第二の性』(共訳、新潮文庫)など。
 
木村信子 [きむら のぶこ]
明治大学・順天堂大学講師。専攻:フランス文学/思想。共編訳書:ジュリア・クリステヴァ『彼方をめざして――ネーションとは何か』(せりか書房)。共訳書:シモーヌ・ド・ボーヴォワール『決定版 第二の性』(新潮社)、『女たちのフランス思想』(勁草書房)。共著:『日本の〈創造力〉』(日本放送出版協会)、『ロベール仏和大辞典』(小学館)、『プログレッシブ仏和辞典』(小学館)、など。
 
天野千穂子 [あまの ちほこ]
中央大学非常勤講師。専攻:フランス文学。共訳書:ジュリア・クリステヴァ『女の時間』(勁草書房)。2005年に死去。
 
加藤康子 [かとう やすこ]
東京大学文学部卒業。主な訳書:ジャン・ラボー『フェミニズムの歴史』(新評論)ジョルジュ・ドゥヴルー『女性と神話――ギリシア神話にみる両性具有』(新評論)クリスティーヌ・デルフィー『なにが女性の主要な敵なのか――ラディカル・唯物論的分析』(勁草書房、共訳)シモーヌ・ド・ボーヴォワール『決定版 第二の性』(新潮社、共訳)。
 
芝崎和美 [しばさき かずみ]
青山学院大学ほか非常勤講師。専攻:フランス文学。共訳書:『女たちのフランス思想』(勁草書房)など。サラ・コフマンの思想の解説・本の紹介に「サラ・コフマン――近代のアポリアをこえて――」(「女子きょういくもんだい」一九九四年夏号労働教育センター刊)、「テクストからみた自伝的なもの――サラ・コフマンの死を悼んで――」(「イマーゴ」1995年2月号 青土社)などがある。
 
中嶋公子 [なかじま さとこ]
翻訳家/日仏の現代女性思想の比較・母性論・身体論/共著:《 主な訳書(共訳):イリガライ『一つではない女の性』(勁草書房)、クニビレール他『母親の社会史』(筑摩書房)、ヴィレーヌ他『フェミニズムから見た母性』(勁草書房)、フィンケルクロート『愛の知恵』(法政大学出版局)、ボーヴォワール『決定版 第二の性』全三冊(新潮文庫)、(共著)『フェミニズムの名著50』(分担執筆、平凡社)。

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サラ・コフマン讃
F・コラン/J=L・ナンシー/J・デリダ/他 著
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