すばしっこい赤狐とのんびり屋の仔牛が、散歩の途中に人間の住む建物に忍び込んでしまいます。探究心旺盛な狐は、グズる仔牛を引っ張りながら建物の中を我が物顔。置いてあった黒葡萄に手を伸ばし、つまんでいたその時、はしご段を上がって来る人間達の足音が…。この二匹の運命はどうなるのでしょう。ちょっと意外な展開が待っていますが、それは読んでからのお楽しみです。
この作品は「銀河鉄道の夜」「注文の多い料理店」などの執筆者、宮澤賢治が書き綴った、小さな冒険短編童話です。あたたかみのある版画が生み出す、愛らしい印象のキャラクターと親しみやすさ。文語体なのだけれど読みやすい文章。読み進めるうちに、どこか懐かしさが感じられます。
宮澤賢治の愛した自然生活の中で育まれた豊かな空想力と独自の世界観。そしてそれらが生み出す、不思議な透明感と既視感が絶妙な後を引くのです。知らないうちに仔牛と自分が重なり合い、私が友だちと空き家探険をした子どもの頃を思い出しました。恐らく皆さんも同じ気持ちになるはずです。
宮澤賢治の作品を読んだ方もまだ読んでいない方も、手始めにこの「黒葡萄」を試してみるのはいかがでしょうか。
最後に皆さんにクイズです。物語の版画挿絵にはカラーで表されたものが一つだけ出てくるのですが、それは一体何でしょう。
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