「ベゴ石」と呼ばれる主人公は、黒くて大きく稜のない石である。その「ベゴ石」をまわりの心ない石や草花などが馬鹿にし、大笑いする。しかしそのベゴ石は、思いやり深く、寛大な心の持ち主であった。周りの石たちの馬鹿にした言葉にも決して怒らず、むしろ自然に言葉を受け入れ、驕りもせず淡々と生活している。そして本当の「ベゴ石」の正体はめったにない標本として博物館に飾られるような、人間にとっては周りの石など比較にならないくらい貴重なものであった。この辺を読んで、わたしは幼い頃読んだ「醜いアヒルの子」を思い浮かべた。
ところで、「本当の自分」など、誰が知ることが出来るのだろうか? 人間にとっては貴重な存在としての石が、石仲間の間では、馬鹿な間抜けな石でしかない。私はこの本から、「自分という存在はどんな価値があるのか」ということよりも、「自分に出来ることをただひたすら行う」ことの大切さと、その難しさを感じた。
そしてその「自分に出来ることをただ行うだけ」ということは、苔に教えた歌のように、自然をおもう気持ちや他人を愛する気持ちの中から生まれるのだということを、この「ベゴ石」が私たちに語りかけているのだと思う。そしていま自分に出来ることはなにかを見つめさせてくれる。
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